【書評】二百年の子供 著・大江健三郎

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二百年の子供(中央公論新社) 著・大江健三郎

本作は著者自ら「私の唯一のファンタジー」と述べられた、若い人たちに向けられた”冒険小説である。
これまでの大江作品から比較すれば、文体はやさしく書かれているものの、その結構は、長年に渡り追求されてきた主題に溢れており、お馴染みの四国の一揆、障害をもった長男、戦争、国家といった、大江ワールドの複数のレイヤーを、3人の子ども達がタイムマシンに乗って、過去と未来へ旅することで、追体験していく物語となっている。

主人公の3人の子ども達は、著者の実の子供たちがモデルとなっており、著者自身も鬱病に苦しむ小説家の父親として登場する。この鬱病の状態を”ピンチ”という柔らかな言葉で表現しているのが非常に印象的で、終盤では父親の”ピンチ”と子どもたちの”ピンチ”が呼応し、一族でピンチを乗り越えていく様を、ヴァレリーの言葉を引用しながら、ナラティブの主格が次第に小説家の父親と一体化され、大江健三郎となって強いメッセージを放つ瞬間が、途轍もなく素晴らしい。

著者は”新しい人”は”新しい言葉”でもって誕生するという。
最後の頁を閉じて湧き上がる得も言われぬ感動は、読者を”新しい人”と迎えてくれようであった。

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