【書評】ニッチを探して [著]島田雅彦

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ニッチを探して  (新潮社) 著・島田雅彦

エリート銀行員である藤原道長は、金融業界の不正を暴くため、20億円に上る不正融資と横領で背任容疑の追われると身となって失踪する。これまでの暮らしを一転させ東京を舞台にホームレス生活のサバイバルをはじめる。

ニッチとはビジネス用語で使われる言葉として認知されているが、広い意味では生物の「生息域」という意味でも使われる。
路上生活の中で、最適なニッチ=生息域を求め、公園、河川敷、ネットカフェ、東京郊外の山の中と、転々と移動を繰り返す。無け無しの金で馬券の勝負に出てみたり、オヤジ狩りに遭遇するなど、先行きの見えない緊張感の中で、逞しく生き抜いていく生命力溢れる主人公が魅力的だ。
また、食料の確保の仕方や、段ボールハウスの作り方など、路上生活のハウツー本としても読み解くことが可能で、路頭に迷うことになっても生きていける勇気と自信も与えられる。

「ニッチを探して」の前作にあたる「悪貨」では贋札で日本経済を転覆させる経済テロの物語だった。「悪貨」では資本主義経済のフィクションを描いてみせ、彼岸コミューンという新たな共同体も提示した。本作でも紙幣を描き、銀行員という資本主義経済の象徴的な人物が路上生活をサバイブする実践的物語の提示には、著者の資本主義経済へのユーモラスな抵抗を引き続き感じ取ることができる。

テキスト/河野周平

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