【書評】希望の国のエクソダス 著・村上龍

kibo

希望の国のエクソダス(文藝春秋) 著・村上龍

本作は2000年に刊行され、当時の経済状況、社会状況を色濃く反映した近未来の経済小説のような作品だが、書かれた未来は今の日本の状況と重なりつつある。
物語は中学生による大規模な不登校が発生し、中学生のカリスマ「ポンちゃん」を中心にネットワーク「ASUNARO」を結成する。「ASUNARO」は映像提供事業を開始し、ネットビジネスを急成長させていく。ネットビジネスで得た莫大な利益を元に地域通貨「イクス」を発行し、独自の経済圏で北海道に独立国家を創設する。

2015年、安倍政権が強行採決を行った「安保法案」に対しSEALDs(シールズ)という学生を中心とした若者が民主主義を唱え国会前でデモを行った。運動はやがて地方にも広がり新たな組織が生まれ、メディアでも大きく取り上げられた。
2015年9月にはSEALDsの代表を務める奥田 愛基氏が参議院特別委員会の公聴会に出席し、意見を陳述するにまで至った。この運動の一連の流れと、配信された参議院特別委員会での意見陳述の映像を観たとき、本作で登場する中学生のカリスマ「ポンちゃん」が国会で演説する印象的な場面と重なって映り、この小説のことを再び思い返した。

つい先日、SEALDSのウェブサイトを訪れると「SEALDs(シールズ)選書プロジェクト」という新たなコンテンツが追加され、メンバーが影響を受けた書籍が15冊紹介されており、その中の一冊になんと本書「希望の国のエクソダス」が選ばれ下記のような寄稿が綴られていたのである。

本書の中学生たちは、戦後の詰め込み型教育で育った人間の代弁者である。義務教育、そしてそれに連なる高校教育では未来に希望を思い描けるような教育はない。
経済の状況も一向に良くならない。迫り来る就職難、年金問題。仮初めの平和…確かにこ
の国に希望はないのかも知れない。だがそんなつまらない言葉を頭から信じ、自身の人生までも腐らせる必要性はどこにもない、ということを私は本書で教えてもらった。義務教育を受けている小学生、中学生、高校生に読んでほしい一冊である。(中村麻)
(SEALDs選書プロジェクトより抜粋)

この小説がSEALDsのメンバーによって紹介されているのを見て大変驚いたし納得もした。
文学は一種の時限爆弾のようなところがある。作品から受けた影響が直ぐに何かに表れなくても、環境や状況の変化により、ある時突然自身のスイッチが押され、自身の生き方そのものが変化する。個々がそのように時限爆弾を作動させ覚醒し始めると、それはやがて国の形を変えることにも繋がるかもしれない。
小説の発刊から15年という歳月を経て、この小説の時限爆弾が作動しはじめたことを実感した。若者の声が高まりはじめた今こそ、あらためて読み返したい一冊である。

テキスト/河野周平

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