百万遍の進々堂とカレー、そして彼とわたし。

「百万遍の進々堂でモーニングをしませんか?」

東京から打ち合わせに来る、
その人は言った。

「京都大学の近くにある老舗カフェ、進々堂ですよ。
一度、有名なカレーとパンのセットを食べてみたいんです。」

あ、百万遍の…

少し間を置いて

「はい、いいですよ。」と返事をした。

思い出すのは、
20年近く前のこと…

ほっぺたが凍てつくような
寒い京都の12月。
早起きをした私は、そのカフェにいた。

3つ年上の
男友だちとの待ち合わせ。

いつもは
平日の3時ころに訪れて
「ココではお砂糖とミルク入りの珈琲ね!」が
定番だったけれど、

ある日

「カレー、食べたことある?
おいしいロールパンと一緒に出てくるよ。」と
彼が推薦したのだ。

モードファッション全盛期、
周りは黒づくめのコが多かったけど
彼は少し違った。

コムデギャルソンのモッズコートに
八尾のときめきスタイル社で買ったベルボトム、
足元はアッシュピンクのコンバース!がスタンダードで、
ニーチェも寺山修司も
まるごとバナナも大好きな
魅力的な人だった(笑)

京都の眼鏡屋さん
ロジータで
一緒に眼鏡も買ったし、
付き合ってはいなかったけど
なんとなくいい感じだった(と思っていた笑)。

当時、将来の話になると
「パリコレに行ける人になりたいねん」
と本気で語る、世間知らずで生意気な私を

励ますこともなければ
けなすこともなく
ただ
「うん、行ける気がする」と
サラリと言ってくれた。
その空気感が好きだったんだと思う。
(もちろんルックスも!)

その日も
最近、流行りのデザート
「パンナコッタ食べてみた?」からはじまり
スタジオ・ボイスのフェリーニ特集に触れたあと
フィシュマンズのアルバム「ORANGE」について
話をしていたように思う。

そこにでてきた
なつかしのロールパンとポテサラ付きの
カレーセット。

スープ仕立てのそれは
ほど良い辛さで
美味しかったけれど
「私は煮込んだ系が好き」と答えた。

だって、昔からそうだったから…
うちのカレーだって
ゴテゴテ系だった。

それから3日後
彼から電話がかかってきた。

「ごめん、もう会えないと思う。」

陳腐なテレビドラマのように
あっさりと
ただそれだけを言って
プツン、と電話は途切れた。

あああ
スープ仕立てのカレーがあかんって
言ったから?

他に何かあったっけ?

どれだけ考えても
答えはでない。

買ったばかりのノキアのケータイを
投げつけたい気分になりながらも(笑)
ちっぽけなプライドが邪魔をして
後を追う力もなし。

いつしか進々堂からは
足が遠ざかっていった。

それから数年後
私は、パリコレに行けるかも知れない
会社で働くことになり
上京をした。

深夜まで働きづめの毎日だったけれど
夢にまでみた世界は
刺激的で飽きることはなく
若さにまかせて
朝方まで、働き→飲む暮らしだった。

ある日
関係先の先輩が
「ホンモノを見る前に免疫をつけてあげるよ!
違うパリコレを見よう」と
会社帰りに誘ってくれた。

そこは東京のゴールデン街
新宿二丁目!

ミラーボールがきらめくステージで
思わぬ再会をすることになる。

そう、
百万遍の進々堂、
カレーパンセットの彼が
ニーチェの彼が
そこで
ものすごく
美しい姿で立っていた…

確かにきれいな顔してたもんなぁ~
足もスラリとしてたもん。

頭のなかでは
思い出の彼と今の彼が
交互にあらわれ、グルグルと回っていたが
帰り道は、不思議なくらい
清々しい気持ちになっていた。

ああ、私の進々堂。

来週、20年ぶりに訪れる。

そしてオーダーするのは
もちろん、カレーパンセットだ(笑)!

※百万遍の進々堂:1930年開店、日本のカルチェ・ラタンとも呼ばれる京都の老舗カフェ
※ときめきスタイル社:カリスマ店長が営む、八尾にあった古着屋さん
(このブログを機に追跡調査したところ、店長のTwitterを発見!)
※スタジオ・ボイス:日本を代表するカルチャー雑誌、2009年に休刊。今年、季刊誌として復刊

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